
関節内注射の利点・欠点
現在、整形外科でよく使用される関節内注射薬には2つのタイプがあります。一つはステロイドが含まれた消炎鎮痛剤であり、もう一つは最近になって整形外科領域でよく使われるようになってきた人工関節液というものです。
熱感があり腫れて痛い状態の変形性膝関節症を治療する方法はいくつかあります。患者が痛みを感じない方法から、少しずつ痛みが増す方法まであります。もちろん、必要でなければ医師も患者も痛みを伴う治療法を選びません。
変形性膝関節症 は人工関節の置換が最終手段 膝矯正手術による変形性膝関節症の治療 2011年、フランス
しかし、私たち整形外科医も時におかしなケースに出会います。患者によっては診察室に入って最初に発する言葉が「関節に注射してください」と言われることです。こういった患者は、過去に治療を受けたとき関節内注射をし、すぐに関節痛が治って仕事に復帰できた経験があるため、医師が何をアドバイスしても耳を貸さず、ただただ関節内注射を希望します。一方、いくら薬を内服しても関節の腫れや痛みが良くならず、かなり痛がっている患者でも、医師が何度か関節内注射を薦めたにもかかわらず、内服薬より注射のほうが危険、または注射を繰り返すと効かなくなってしまうと思い込んで、関節内注射を拒み続ける患者もいます。
変形性膝関節症における関節内注射の正しい知識が、今日しっかりと理解してもらえるようにこれから説明していきます。
現在、整形外科でよく使用される関節内注射薬には2つのタイプがあります。一つはステロイドが含まれた消炎鎮痛剤であり、もう一つは最近になって整形外科領域でよく使われるようになってきた人工関節液というものです。
消炎鎮痛剤の関節内注射法は、例えば、二週間以上消炎鎮痛剤を服用し続けて胃の痛みが出た患者や、消炎鎮痛剤の使用により腎臓へ負担がかかり、薬剤の排出が悪くなるなどの副作用が出始めた患者に適用されます。
消炎鎮痛剤を関節内に注射するメリットは、炎症が起きた場所に直接注射することで、早く痛みが治ることと、薬剤の効能が長いため、長期間継続的に消炎鎮痛剤を服用しなくて済むことです。毎日薬を服用しなくても膝が痛くなりません。また、病気になる前のように、うまく歩行できるよう膝を回復させるために、膝関節周辺の筋肉をリハビリで鍛えるときでも、患者は膝の痛みを感じません。
この関節内注射薬について、よく誤解されていることがたくさんあります。例えば、ステロイドが含まれているため関節に注射すると骨がうすくなってしまい危険だと思っている人がいます。しかし実際のところ、ステロイドが危険なのは間違った方法で使われるときだけです。例えば、他の鎮痛剤と混ぜて何の病気にも効く万能な薬として長期間使用をしたとき、急に体重が増加したり、重要なホルモンの体内合成の停止を引き起こしたりするときです。考えてみて下さい。もしステロイドが危険性のみを持っているのであれば、なぜ今でも医学界で使用されているのでしょうか。間違った使用方法では、どんな薬剤も副作用を引き起こす可能性があります。
関節内注射において、もう一つよく恐れられていることは、繰り返し注射を行うと効かなくなる危険性があるのではないか、ということです。整形外科医が一般的に使う 関節内注射薬は、注射される組織において2-3ヶ月の間効能を持ち続けます。よって同じ場所に同じ薬剤を複数回注射する必要はありません。薬がまだ効いている期間でも、膝の痛みが緩和されなければ、他の治療法を探さなければいけません。
関節内注射による治療にはデメリットもあります。まず分かりやすいのは、注射自体は危険ではないですが、痛いことです。危険があるとすれば、皮膚から膝関節まで穴を開けるため、皮膚表面の細菌が膝関節にまで感染する可能性があることです。したがって、関節内注射による治療は必要な患者にだけ行い、また経験がある医師だけが行うべきです。
次回は、北米とヨーロッパで人気があるもう一つのタイプの関節内注射薬、人工関節液についてお話します。米国では、使われ始めた最初の一年で、人工膝関節置換手術を受ける患者が半分まで減ったことから、非常に効果がある治療法です。